新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

仕事/セックス:「境界線上のエクスタシー」。

努力ゼロでやせる!『脳活性ダイエットCD』」がヤバい。

太るのは脳が怠けているだからだとのたまって、聴くだけで20kg痩せるだとかいうCDを売ろうとしている。

今朝の朝日新聞に広告が載った。

「努力ゼロでやせる!」

「20日聴いたら大幅にやせた!」

「全身の代謝アップ!」

「IQもアップ!」

等々、駄目なところが多すぎてどこから注意すればいいのかわからない。

どこかへちょっとたれ込んだらすぐ問題化しそうな広告だが、となりの枠を学会系の月刊誌「パンプキン」が占めていることに気付き、広告収入厳しき折から、朝日がバーターでやむなく売った枠なのだと理解した。


さてイースト・プレス刊・山本直樹夕方のおともだち」である。

昨年刊行された自薦短編集第1弾「明日また電話するよ」に漏れた作品群だとあえて云ってしまうが、その詩情はいかにも前作に劣っている。

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表題作である「夕方のおともだち」は作者による短編集「フラグメンツ」の第1巻に収録されている作品で、壮絶なSMプレイを描き切っており、僕は痛すぎて、あまり最後まで読めない(最後まで読むと非常によい、映画的なシーンが用意されているのだが)。

物語は郊外の冴えない小都市「いるか市」の水道局に勤めるしがない30男が自分のM癖を告白するところから始まる。

街に一軒しかないSMクラブのサービスに麻痺した彼は、行方不明になったSの女王「ユキコさん」を追い求める。

市長選の選挙カーでウグイス嬢をやっていたユキコさんを見付け、食い下がりやがて夢にまでみた地獄のような(天国のような)お仕置きの果てに・・・というストーリーで三部作。


山本直樹の作品がなぜ愛されるべきかは「日常のセックスが非日常とセックスの日常と俺。」に詳しいためここで改めて謳うことは避けるが、出版社がなんと云おうと「次点」の作品を集めたことには間違いのない本作品集では山本作品の妙味が常に欠ける。

いずれの作品も、「日常」→「実は」という裏と表、陰と日向、本性と表ツラみたいな転換を「おもしろさ」として提供しており、境界線上のエクスタシーはついに得られることがない。

引退して選挙運動の手伝いをやる冴えないOL風のユキコさんしかり、先生とアシスタントしかり、詩人の先生(なりはペンギンだが)しかり、いずれも仕事をするはしている風情がどうにも板についており、永遠に「日常と非日常」の狭間に捕らえられた山本作品特有の登場人物の希薄さや曖昧さ、その浮遊感と気持ちよさからは一線を画している。

第一集に漏れた作品として「世界最後の日々」が収録されることもまた期待していた全人類にとってはいかにも肩すかしな一冊となったが、「これがあったか!」と思わせる作品が所収された第三集が発刊されることを期待しつつ本棚に眠らせておく。

夕方のおともだち (CUE COMICS)

夕方のおともだち (CUE COMICS)