新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

マクロな神が、東京。

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私のパーソナル・ヒーロー「おばけのロウチョン」は、もっと評価されていいミュージシャンだ。

セットリストはプログレッシブなリズムに不意を突く構成、なんとなくギリギリ感のあるシャウトで彩られたナンバーばかりだが、詞はどれも胸を衝く切なさにあふれており紛れもないというかむしろ上質なラブソングであるところがたまらなくよい。

昨年の春に東京・下北沢で催されたイベントではベトナムからきたものの民族音楽をやるわけではないと詫び、「よくパンクだといわれておりますが、パンクではなく生活に根ざした音楽をやっております」とことわったあと他の出演者を圧倒するステージをひとりで展開、「東京は~、キミとなら~」で始まる「東京」は文字通り場内を熱狂の渦に巻き込んだ。ものすごく生活に根ざしていた。

 

おばけのロウチョンは音源をリリースしておらず、珠玉のリリックはいまもってその全容が明らかではない。

「東京」では「マクロな神が」云々と歌っているように思ったのだが本人に訊いたら「よく分かりませんが、たぶん違うと思います」ということであった。

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気が付いたら従弟二人が大学院を卒業して就職しているのである。

どちらも会計大学院を出て、兄弟がそれぞれ関西発祥の大企業にて財務部に職を得た。

 

兄の方には二ヶ月前に会ったばかりだが、法要があるということでまた顔を合わせることになった。

逆に弟はまたも休日出勤でこられなくなっている。

後進であるところの弟に「会計を制する者が会社を制するんやぞ」と大見得を切ったとかいう兄。

しかしこの人の本棚には会計の専門書にはさまれて「オンナの口説き方」というかなり読み込まれた本があるらしく「会計の前に制するものがあるんちゃうんか」と疑問を口にした弟の方はかなり辛辣な男である。

 

わけあってここのところ大学教育についていろいろ考えることが多いわけで、最終学歴で完全にわたしを凌駕している従弟と「生まれ変わったら大学で何を勉強するか」という話になった。

今回の人生で私が修めたことになっている政治学というやつも真面目にやればもう少し違ったかもしれないが、そのへんの事情はさておき私の答えは「マクロ経済学」である。

相手は会計学修士様なので私よりは多少心得があるものと察するが「なんでマクロ経済学?」と訊かれて少し考えた。

 

「マクロ経済はますます多くの人がより深く影響を受ける原理・現象界であるにもかかわらず、それ自体が実際には存在せず、イリュージョンに過ぎないところに強い興味をおぼえるから」

 

これはほぼ宗教とおなじ特徴であって、すなわちマクロ経済は神に等しく、マクロ経済学の役割は神官のそれである。

と思ったら最近読んだ本では各国中央銀行総裁のことを最近では「マネタリー・シャーマン」と呼ぶひとがいると伝えており、我が意を得たりと膝を打つ。

マクロ経済は名実ともに「信用」の膨張と収縮によって動いており、科学はこれを分析できるがコントロールできない。

しかしマクロ経済の激変はいまや(というかもう100年以上前からそうだが)世界中のひとびとの生活を大きく狂わせるから、これを御すために設置された各国中央銀行だがこれに付託された強大な権限にもかかわらずその総裁はもはや雨乞いか神託を発するぐらいにしか世界の運命に影響を及ぼすことができないと考えられている。

※たとえばECBの"スーパー・マリオ”・ドラギ総裁は「ユーロ高を防ぐためにあらゆる手段をとる」と表明し、なにもせずに半年以上の時間を稼ぐことに成功した。

 FRBのイエレンは利上げ期待を遠ざけるのに失敗して株式市場の混乱を招いたが、利上げを予想させたのは数値に反映されるファンダメンタルズというよりはイエレンの思想とバックグラウンド、その政治的手腕といったパーソナリティだった。

 

いまさら無神論者を気取っても仕方がないが、神が物理的存在でないということぐらいは云っても怒られないだろう。

神は心的な存在であり、ひとびとの期待と怖れが導く結果のなかに象徴的、論理的に顕現する存在である。

つまりマクロ経済もまた、こうした意味で神そのものだと考えてよい。


ポール・クルーグマン「どんなコストを払ってでもインフレ妄執を広める人たち」 — 経済学101

だからもう、不道徳なこの世に神の裁きはくだるか、くだらないか、いつくだるかみたいなのと同じ次元(高次元)の議論なのよ、マクロ経済をめぐる話は。

我々は、マクロな神が支配する世界でカネの価値を信じ、将来の稼ぎに絶望し、自分のカネを守りひとのカネを奪おうと実際に殺し合っている。マクロな神の寵愛をめぐり、我々は兄弟を殺すことだってあるのだ。

 

結果的にはこの世の正しい姿を描き出し意図せざるも「マクロな神」に言及したおばけのロウチョンの名曲「東京」。

この作者もまた巫女のような存在であって、作品は人格を離れ洞窟の壁にしたたる水が描き出した聖母像のようにこの世へ現れた。たとえばキリスト教会ではこれを奇跡と呼ぶ(こともある)。

「東京」の奇跡がレコーディングによりあまねく我々の手に届くことになる日を心待ちにしている。


Over Key Knows Roach On/20140426/The20thCentury/Cat Brothers/Apartment/Brownie - YouTube

※音源に「東京」は含まれていない。

 

※追記 2016/06/18

Over Key Knows Roach On(おばけのろうちょん)こと遠藤さんの音源はすでに2曲が公開されている。

1st Single

Riot! Next Week!!

Riot! Next Week!(Single Version) | Over Key Knows Roach On

 

2nd Single

Is This Weed Edible?

Is This Weed Edible?(​Single Version) | Over Key Knows Roach On