新宿メロドラマ

安っぽいヒューマニズムは要らない。高いのを持ってこい。

【後編】Mike Hearnのビットコインお別れブログを邦訳してみる。

思いがけずシェアしていただいて、ブクマがついたことに勢いづいて、後半まで訳し終わった。

事実関係については明るくありませんので評価を控えますが、なかなかショッキングなコミュニティ内部の分裂の模様が報告されています。

最後のパラグラフに込められたMike Hearnの思いと希望の言葉には、ただ精神的に感動。

 

前編は以下のエントリーで公開しています。

ご注意というか拙訳の云い訳なども挙げてあるので、お読みいただいていない方は、どうぞご一読くださいませ。

以下、承前

原文は以下のエントリー:Mike Hearn「The resolution of the Bitcoin experiment - medium」

Maxwellにいわせれば、ビットコインが拡大することによる分散化にまつわる問題は、いずれにせよ解決しない。「ネットワーク上のトランザクションに関していえば、規模と分散化はそもそもトレードオフの関係にあるんだ」

 

問題は、と彼はいう。ビットコイン取引の量が拡大するにつれて、大規模な企業しかノードを運営できなくなるということなんだ。どうしてもコストがかかるからね。

 

ビットコインの運命は決している、なぜならユーザーが増えるほど分散化ができなくなるからだという、この考え方は非常に問題だ。なぜならば、一連の熱狂ぶりにもかかわらず、実際の利用はまだまだ進まず、成長はゆっくりしたものである一方、技術は時と共によくなっているからだ。Gavinと僕は多くの時間をかけて、こうした信念を誤りだと指摘してきた。こんな風に考えていると、やがて自明だがおかしな結論にたどり着くことなるのだ。それは即ち、分散化がビットコインの利点であるにもかかわらず、成長が分散化を脅かすならば、「ビットコインは成長しない方がいい」というものだ。

 

だがMaxwellはこう結論づけていた。ビットコインは、まだ開発されていない、非ブロックチェーンシステムシステムのための決済レイヤーを担っていくべきだと。

 

デス・スパイラルの始まり

会社において、組織の目標を共有しようとしない人をどうすればよいかは簡単だ。クビにすればいい。

 

だがBitcoin Coreオープンソースプロジェクトであって、会社ではない。選ばれた5人の開発者がコードをコミットする権限をもち、Gavinがリーダーをやらないと決めた以上は、誰かを辞めさせることは手続き上できない。それに、彼らが本当にプロジェクトのゴールに納得しているかどうかを確認するための面接やスクリーニングも行われないわけだ。

 

ビットコインがより知られるようになり、トラフィック1MBの上限に近付くにつれて、開発者の間ではブロックサイズの上限の話題がたまに持ち上がるようになった。だが、この話題は感情的な批難にさらされるようになったんだ。その理由というのは、上限の引き上げは危険過ぎるとか、分散化に反するとか、そういったようなことだ。小さなグループはどこもそうだが、みんな争い事は望まないもんだ。だからその話はいつも棚上げされることになった。

 

ことをよりややこしくしたのは、Maxwellが会社を設立し、ほかの数名の開発者(訳注:コミッターのことだと思われる)を雇ったことだった。当然のことながら、これらの開発者は新しいボスの見方にならうようになった。

 

ソフトウェアのアップグレードをまとめげるのには時間がかかる。だから2015年の5月に、Gavinはこの問題に取り組み、片を付けると決めた。まだ8ヶ月の余裕があるうちにだ。彼は(ブロックサイズの)上限引き上げに反対する記事を一本ずつ順次リリースし始めた。

(訳注:「反対する記事」は訳が悪いかもしれません。

    ソースのリンク先エントリーからは、漸進的な上限引き上げに向かうような議論が読み取れます。

    このあたり、Gavinの立場と当時の流れをご存じの方がいらっしゃいましたらご教示ください)

 

だが、Bitcoin Coreの開発者達の意見が噛み合う望みがないことはすぐにわかった。Maxwellと彼が雇った開発者たちは、上限の話なんかはまずまったく考えたくもないということだった。その件については話すのも嫌だというぐらいだ。「コンセンサス」がないうちは、一切の行動を起こすべきではないと彼らは主張した。そして意見を表明するべき開発者たちは、もめ事が起こるのを怖れるあまり、どちらか一方が「勝つ」ような論争にはタッチしないことを決め、巻き込まれるのを拒むばかりだった。

 

このように、取引所、ユーザー、ウォレット・デベロッパ、採掘者のみんなが上限引き上げを期待して、引き上げがおこなわれるであろうという前提でビジネスを築き上げているにもかかわらず、5人の開発者のうち3人が上限について触れることを拒んだわけだ。

 

どんづまりだ。

 

だが、その間も時計は時を刻んでいる。

 

XTユーザーへの大規模なDDoS攻撃

ニュースが遮断されてしまっていたにもかかわらず、Bitcoin XTがリリースされてから数日のうちに15%ほどのノードがこれを採用した。そして少なくともひとつのマイニング・プールが採掘者に対してBIP101投票を提供し始めていたんだ。

 

DoS攻撃が始まったのはそのときだった。攻撃はきわめて大規模で、一部の地域がインターネットへ接続できなくなってしまうほどだった。

 

DDoS攻撃をくらった。大規模なDDoSで、こちらの(ローカルの)ISPが丸ごとダウンしてしまった。この犯罪者どものおかげで、この夏、5つの町の住民が数時間にわたってインターネットを使えなくなったんだ。これでノードをホスティングしようという気が完全に失せてしまったよ」

 

また別のケースでは、たった一個のXTノードを止めるために、データセンター丸ごとのネット接続が落とされたこともあった。XTノードの三分の一は、こうした攻撃を受け、インターネットから遮断されてしまうことになった。

 

もっとひどいのは、BIP101を提供していたマイニング・プールが攻撃を受けて停止してしまったことだ。メッセージは明確だった。ブロックサイズの引き上げを支持するもの、あるいは「他の人々に投票を促した」だけのものも、すべてが攻撃を受けるのだ。

 

攻撃者はまだ機会を狙っている。リリースの一ヶ月後、ついにCoreに対して我慢できなくなったCoinbaseXTを採用すると発表したとき、彼らもまたネットに接続できない状況に追い込まれた。

 

見せかけの会議

Dos攻撃や検閲にもかかわらずXTは勢いを得つつあった。このことに怖れをなしたCoreの開発者たちは「Scaling Bitcoin」という名で一連の会議を催すことを決めた。8月と、それから12月にだ。会議の目的は、と彼らは発表した。何をなすべきかについての「コンセンサス」を得ることだと。専門家による「コンセンサス」が嫌いなひとはいない。そうだろう?

 

上限について話そうともしない人達が、会議に出たからといって心変わりするはずがないことは明らかだった。しかも冬の上昇期に入ればネットワークをアップグレードするのに残された時間は数ヶ月しかないというのにだ。その期間を、会議を待ちながら無駄に過ごすことはネットワーク全体を不安定化するリスクを冒すことになる。最初の会議が具体的な提案について「議論することを事実上禁じた」こともある。

 

それが、僕が会議に参加しなかった理由だ。

 

残念ながら、会議のとった戦術は破壊的に効果があった。コミュニティは完全にだまされたんだ。採掘者やスタートアップにXTの採用を拒む理由について話すとき、みんなが「Core12月に上限を引き上げてくれるのを待ってるのさ」というようになった。コミュニティが分裂していると知れてビットコインの価格が下がり、彼ら自身の稼ぎが減ることを怖れて、メディアに記事が載ることをみなが怖れていたんだ。

 

さて、このあいだの会議が終わったにもかかわらず、上限引き上げについてはノープランだということにより、いくつかの会社(CoinbaseBTCCだ)はダマされていたことに気づいた。だが遅すぎる。コミュニティが時間を潰していたあいだも、毎日250,000の自然増がトランザクションには加わっていたからだ。

 

ロードマップなきロードマップ(a non-roadmap)

Jeff GarzikGavin Andresen5人のBitcoin Coreコミッターのうちの2人で、ブロックサイズ引き上げに賛成してきた(2人は最も古参でもある)が、コミュニティにおける輝かしい評価を受けている人物でもある。彼らは最近共同で記事を発表した。その名はBitcoin is Being Hot-Wired for Settlement”だ。

 

JeffGavinは普段、僕よりも物腰が柔らかい。僕はむしろ「思ったままに口に出す」タイプで、Gavinにいわせると「まやかしを認めない」というわけだ。だから、彼らが共同で発表したレターの強い口調はめずらしいものだ。まったく手加減なしなんだ。

 

ビットコイン・コミュニティで提案され、現在も議論されているロードマップは、より多くのトランザクションに対応しようという点ではよい。

 だがビットコインユーザーに対してはっきりものをいわないうえ、重要な欠点について明らかにしていない。

 

 コア・ブロックサイズは変更されないことになっている。従来、この点については一切の妥協がみられない。

 

 よりよい、透明で開かれたオープンソースの世界であれば、BIPが生み出されたことであろうが・・・実際にはそうはならなかった。

 

 Scaling Bitcoinワークショップの大切な目的は、混沌としたブロックサイズ議論を通常の意思決定プロセスに収斂させることだったが、そうはならなかった。いまになって思えば、Scaling Bitcoinはブロックサイズにまつわる決定を行き詰まらせてしまったのだ。トランザクションフィーの価格やブロックスペースにかかる負荷はいまも増加し続けているのに、だ」

 

彼らのいう「はっきりものをいわない」というのは、日に日にありふれたことになっていく。たとえばGavinJeffが指している“Scaling Bitcoin会議で発表されたプランはたいして効果的なものでもない。計数上のトリックを使って、わずか60%ほどキャパシティを増加させているだけだ(それぞれのトランザクションから何メガバイトかずつ差し引いて計算している)。そしてそのプランはほとんどすべてのビットコイン関連ソフトウェアに膨大なアップデートを必要とする。ただ単に上限を引き上げればいいのに、そのプランでは信じられないほど複雑なことを、長ければ何ヶ月も、そして膨大なコーディネートの労力をかけて実現しようとしているんだ。

 

決済フィーによる解決

ネットワークの混雑を解消するために手数料の仕組みを使うことにはひとつ問題がある。承認待ち行列の先頭にならぶために必要なフィーが、支払いを終えた後で変動するかもしれないことだ。Bitcoin Coreがこの問題に対してとった対策には目を見張るものがある。ユーザーが支払いを終えたあと、ブロックチェーンに収まるまでの間に決済額が変更されてもよいというマークを付けられるようにしたんだ。これはフィーにあわせて支払い額をあとから変更できるようにということだったが、結果的にユーザーは、支払いを取り消すことが可能になってしまった。

 

これにより、あっという間にビットコインは実店舗での支払いに使えなくなってしまった。だって店舗は客のトランザクションがブロックチェーンに収まるまで待たないといけないんだから・・・それも今後は混雑のせいで数分というより数時間かかるかもしれないんだ。

 

Coreがこれを問題ないとしている理由は以下の通り。本来は、いままでだって新たなブロックができるまで待たなければならなかったはずだろう、だってビットコインがニセモノだったら決済が失敗するリスクがあったんだから。つまり、決済の完了ははじめから100%確実ではなかったんだと。

 

これはつまり、Coreがこの仕様変更はゼロコストだと考えているということで、つまり彼らはリスクマネジメントの観点を持っていないわけだ。

 

このプロトコル変更は、Coreの次のバージョン(0.12)としてリリースされ、採掘者たちがアップグレードした時点から有効になる。ビットコイン・コミュニティからは大変な批難を浴びたけど、Bitcoin Coreに残っている開発者たちは、他のひとのいうことなんて気にしない。だからこの仕様変更はおこなわれるだろう。

 

これを聞いてもビットコインが深刻な問題を抱えていることがわからないなら、ずっとわからないだろう。リアル店舗で使えないなら、誰がビットコインに何百ドルもの値段をつけるっていうんだ?

 

結論

ビットコインはすでにかつてない危険海域にある。過去の危機は、たとえばマウントゴックスの破綻のように、ビットコイン生態系の周辺にからむサービスや企業に関するものだった。でも今回のは違う。これはコア・システム、ブロックチェーンそのものに迫る危機なんだ。

 

より原理的には、今回の危機は、世界がひとびとの目にどのように映るかについての深い、哲学的な食い違いにまつわるものだといえる。「専門家のコンセンサス」がすべてを決するべきだと考える人々と、とにかく自分たちで納得できる原則でいこうという普通の人々だ。

 

Bitcoin Coreを開発する新しいチームが誕生したとしても、Great Firewallのうしろに集中しているマイニング・パワーの問題は残るだろう。10名にも満たない人々にコントロールされている限り、ビットコインに未来はない。そしていまのところ、この問題に解決は見当たらない。アイデアのある人すらいない。ブロックチェーンのことに頭を悩ませてきたコミュニティに代わって、抑圧的な支配が進んでいるからだ。実に皮肉なことだ。

 

だが、まだすべてが失われたと決まったわけじゃない。こうしたことが起こったにもかかわらず、過去数週間の間に、コミュニティのメンバーたちが僕のやりかけた仕事にふたたび取りかかり始めている。Coreに代わるものをつくるのは重罪だと見なされたにもかかわらず、いままたふたつのforksが注目を競っている(Bitcoin ClassicBitcoin Unlimitedだ)。いまのところ、これらはXTが直面したのと同じ問題にぶつかっているが、新たな顔ぶれが道を切り開くということもありうるだろう。

 

ビットコインの世界では多くの、才能にめぐまれた、精力的な人々が働いている。過去5年間に、こうした多くの人々と知り合えたのは大変なよろこびだ。彼らの起業家精神や、マネーの未来、政治・経済についての新たな展望に触れることができたのは素晴らしかった。たとえすべてが駄目になったとしても、ビットコインのプロジェクトにかかわった時間を惜しいとは思わない。今朝起きると、みんなが僕に検閲外のフォーラムでうまくやっていくことを祈ってくれたり、残るようにいってくれたりしていた。残念だけど、僕はもう新しいことへ向かって動き始めている。みんなにはこういいたい。Good luck, stay strong, and I wish you the best.

(原文、ここまで)